はじめに
Rebootコミュニティが主催する、オンラインセミナーが開催されました。今回は、中小企業の支援を行うM&S Atelier Japan 後藤慎一氏をお招きし「生産性向上支援の心得」と題してお話しいただきました。
慢性的な人手不足、業務効率化、最低限のコストで会計の見える化など、小規模企業では多くの問題を抱えています。そもそも業務とはどのようなものなのか、会社の生産性を向上させるとは、トヨタグループで学んだノウハウを業務に落とし込み、企業を活性化させるポイントをレポートします。
講師紹介
後藤慎一氏 ごとうしんいち
1969年5月27日 神奈川県相模原市出身。
トヨタ東日本の前身であるセントラル自動車(塗装技術室)にてノウハウを学ぶ。その後、知人の紹介で輸入車販売(ボルボカーズ相模原)入社。リーマンショックを経験するも、前職で学んだ知識を生かし、入社3年目でトップセールス入賞(エクセレントセールスパーソンクラブ)。今までの経験してきた、営業力、業務改善力を生かし、2014年10月M&A Atelier Japanを創業。
働くスタッフに備えさせる「考働力」
初めての就職先はセントラル自動車の生産塗装技術でした。
その後、トヨタ元町工場に出向する機会があり、トヨタの不可能を可能にする業務効率化に触れることになりました。
企業支援を実施すると、業務を改善することに気持ちが向きますが、働くスタッフに考働力(こうどうりょく)を理解してもらうことが重要です。考働力とは、自らが考え行動し、結果に責任を持つことです。この考えを理解することで、業務に情熱を持って取り組むことができます。
企業支援とは、終わりなきカイゼン
企業支援とは、外からは分かりづらい改善に積極的に取り組むことです。
トヨタグループでは、改善をカイゼンと表記します。
漢字の「改善」とは、悪い状態を、良い状態に変えることです。
そして、 カタカナの「カイゼン」は、一度の改善に満足せず、自ら問題を探り、改善し続けることです。
当たり前のように感じますが、一度の改善だけで満足してしまうことが企業にはよくあります。そのシステムが何十年も変わらず、業務を停滞させていることも多々あります。どのようなことでも、常にアップデートし続けることが必要です。
徹底的に無駄を排除する!必要なムダと不必要なムダの違い
ムダの定義とは、なんでしょうか。それは、付加価値のないもの(お金にならないもの)です。
ムダの中にも、必要なムダと不必要なムダに分けることができます。不必要なムダは、ミスやロス、やり直しなど、早急に取り組まなければならない問題です。
そして、必要なムダは、省くことが難しく、カイゼンされにくい部分です。見積もり作成するスピード、会議の時間、5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)などがあげられます。この業務は取り組めば売上が増える業務でないため、カイゼンに着手する企業も少ないです。
しかし、この必要なムダを解決しないと業務の効率化にはつながりません。カイゼンの一歩を踏み出すために、仕事を効率的かつ短時間に行う方法(業務御自動化、委託、ボトルネックをつかむ)に、目を向ける必要があります。
業務の標準化で制度を向上させる
業務の標準化とは、基準を作ることです。基準があるからこそ、スタッフの中での良し悪しの判断がつきます。標準を設定するポイントは、「誰が見ても良しとなる基準」に設定することです。
例えば、作業に不具合が生じた場合、「標準通りに作業したのか?」とスタッフに確認します。「標準通りに作業しました」と答えた場合は、標準書(作業)を見直す必要があります。「標準通りに作業していませんでした」ということであれば、スタッフに標準通り作業させる指示を出すことが可能になります。この時、「標準通り作業させない理由があるのではないか?」と考えることもできます。標準通り作業しなかったスタッフを責めるのはなく、マネージメントのカイゼンに努めることで、社内の環境を整えることができます。
◆ポイント◆
①不具合が生じれば標準書をカイゼンする。
②作業者にスポットするよりは、行程を意識すること。
ものづくりは人づくりと言い換えることができます。段取り八分仕事二分ともいわれる通り、段取りの時点でカイゼンされなければ、業務カイゼンにつながりません。やって見せて、言って聞かせてさせてみて、そしてフォローすることが業務カイゼンに重要なことです。
カイゼン事例
後藤社長が取り組んだカイゼン事例を2つ紹介します。
カイゼン例①
カイゼンを通したモラールアップ例(モチベーションアップ)
以前から、物で通りにくく、ストレスを感じていた通路をカイゼンしました。
まずは、スタッフに5Sを徹底させ、整理整頓の必要性、意味を説明します。やることへの意識付けと、スタッフの理解を得ることが大切です。そして、床に区画線を引き、環境を維持できるよう設定します。伝えるだけでなく、目で見てわかるよう、明確に作業します。最後に、効果や感想を現場のスタッフに聞くことが重要です。達成感や自覚を確認することで、カイゼンされた環境がよかったと理解してもらう必要があります。
カイゼン例②
動物病院であったカイゼン事例です。
スタッフ10名に問題の見える化を徹底しました。まず、スタッフにアンケートを取り、問題を洗い出します。その内容をリストにまとめると53点の問題を洗い出すことができました。
集まった問題を「自責と他責」に分けます。(結果は半々でした)。まずは、自責の問題から取り組みます。自責の問題から取り組む理由は2つあります。
一つ目は、「過去と他人は変えられえない」という言葉があるように、他責の問題はうまく解決しないことがあります。先に着手できる自責の問題を解決し、問題量を減らします。
2つ目は、自責の問題を解決していくと、自然と他責の問題が解決することがあります。他人の問題だと思っていたことが、自分の問題であったり、解決の糸口になることが多くあります。
問題解決に取り組む際は、個人の意見で解決するのではなく、経営理念やブレストを活用して解決に取り組みます。共通ルールがあることで、話し合いもまとまりやすくなります。また、問題解決には、会社のスタッフだけで行うことがおすすめです。
主体性を持つことで継続して話し合いができるようになります。
★ブレストのポイント★
①結論厳禁:批評しない、結論を出さない
②自由奔放:荒削りなアイディアを歓迎する
③質より量多様性を重視
④便乗歓迎:糸のアイディアから連想発展させる
⑤経営理念や指針を用いる
企業支援訪問先で意識する2つのこと
企業支援先での心得を2つ紹介します。
①訪問先では、ヒアリングを徹底的に行います。心を開いて話し合える信頼関係がなければ、本音を聞くことはできません。相手の心に入り込むには、会社を良くしたいという誠意や熱意をしっかりと伝えることです。
②現場調査(三現主義:現場・現物・現実)です。
業務カイゼンは、現場に足を運ばなければわからないことがあります。においや温度、現場の緊迫感、雰囲気など、スタッフと共にもに感じ共有することで本当の問題を知ることができます。
次に、企業支援のステップを紹介します。
初期 「見抜く→現状把握と目標設定」
①初期段階で必ずゴールを設定します。ギャップを把握し、ギャップを埋める作業を行います。
②スタッフの意識を下げないように実践していきます。
中盤「寄り添う」
①共感し、同じ仲間である事を植え付けます。良い事も悪い事も共有し、信頼関係を強めます。
②一緒に作業に取り組みます。同じ作業服を着て活動するのも効果的です。同じ場所で、同じ時間、同じ問題を考えることで、リアルな現場の意見を聞くことができます。
中盤「突く」
①痛いところを優しく突きます、味方だけど立場が異なることは明確にします。また、なんでもやりすぎず、頼られすぎないように自責の念を持って行います。言い方も上から落とすのではなく、寄り添い話すことが大切です。
②誰の味方であるかを明確にします。主役はお金を生み出す社員であること。そして、社長でも社員でもなく会社の味方であることを伝えます(どちらかというと社員の味方)。業績が良くなれば社長も社員もwin-winの関係を築くことができます。
中盤「味わってもらう」
①成功や失敗体験を味わい、チャレンジする環境を与えることが大切です。
②自分たちで解決に導く考働力を養います。自分で考えた答えは責任感と達成感が生まれます。
終盤 「自分の口から発現させる」
①失敗は、反省させて発言させます。そして、分析し、解決策を自発的に構築でき、メカニズムを理解してもらうように促します。
②次につながるように、失敗は対策案で再検討し実施します。成功は標準化し、実践していきます。
まとめ
今の小規模企業に必要なことは、自らが問題を見つけ、解決し標準化することです。そして、支援者が意識することは、共に業務に取り組み、サポートすることです。新しいシステムを導入、構築しても運営できなければ問題が増えてしまうだけです。自分たちでカイゼンする力を身につけることで、先に進むことができます。最終的には、あきらめないカイゼンを企業自ら実践し続けることが、支援につながるのだと信じています。